潮騒

日記

6/20


毎日通る道の角に床屋がある。数年前は営業していてそこには暇そうにおじいさんが新聞を読んでいた。ある時、床屋は営業しなくなった。おじいさんの影も消えた。ずっと暗いままで、がらんとしている。ある真夏日、周りの建物は日に照らされ白くまぶしかったのに床屋の中には一筋の光りも入っていない様子だった。とにかく暗い。使われなくなったシャンプーやその他の道具が片付けられることなくそこにあって冷え切っていた。店主が神隠しにでもあったのかと思うほどそのまんまの状態で放ったらかしにされた空間。チラッと中を見ると、鏡がとても綺麗に私の顔を写した。その鏡が床屋に入る光りをすべて集めているかのようだった。最近はその床屋で鏡に映る自分を見つめることが楽しみになりつつある。信号待ちのあいだ、何をするでもなくただじっと鏡を見つめる。もうだれも写さなくなったであろう床屋の鏡。