潮騒

日記

夜闇

触れ合うだけでこころは全部通じるものだと思っていたのに、抱き合ってもふたりの間にはちゃんと暗がりができていて、そこは最後まで埋まることがない。身体のなかは限界があるし、わかるから安心するけれど、こころには限界が無かった。中心に触れたくて確かめようとしても、どこにあなたがいるかわからなくなって、わたしというものも見失う。怖くても、怖くても求めている。どうしようもなく好きな人、好きだった人。

そんな時間を過ごしていたことがあったこと、早く忘れたいのにいくら奥の方にしまい込んでもふとした時に出て来てしまう。思い出だけど涙はいつも新しい色と温度で熱い。人の体温を知っているから、自分との差を思い知って寒くなる。どうして誰もそばに居てくれないのだろう。孤独なんか本当は自覚したくなかった。

 

テーブルに茶色い羽蟻が来て、本の栞に乗せて窓から逃がした。夜の闇に放り込んだ。明るい場所が悲しい。